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About femtosecond regenerative amplifier
フェムト秒再生増幅レーザーとは?
チタンサファイア結晶を利用したフェムト秒レーザー(オシレータ)の出力は通常 80MHz 程度の繰り返し周波数で、出力強度は数百 mW~ 数 W 程度になります。これは、1発のパルスあたりのエネ ルギーを計算すると数 10nJ のエネルギーとなります。このエネルギーでは非線形結晶で波長を変換したり、高次の非線形光学過程を物質中で起こすには少し小さすぎて、使いづらいのです。このため、
「繰り返し周波数は落ちるけれども、1発あたりのパルスエネルギーがより高いレーザー光源」があると非常に便利になります。まさにこの要求を満たすのがチタンサファイア再生増幅器であり、この装置を使うことで例えば繰り返し周波数が1kHzで出力パワーが数Wのレーザー光が得られます。
具体的な例を挙げると我々が利用しているレーザー(オシレータ)は繰り返し周波数76MHz, 400mWの出力があります。これは5nJ/pulse に相当します。一方、このオシレータの出力をシード(種光)として増幅する再生増幅器の出力は 1kHz, 3Wとなります。つまりパルスあたりのエネルギーは 3mJ/pulse になります。この結果、パルスあたりのエネルギーは再生増幅の結果、600000 倍にもなっていることがわかります。 これだけの強度があれば、再生増幅器の出力を波長変換(効率10~30%程度)によって必要な波長の光に変換しても、十分な強度のパルスを得ることができるのです。場合によっては、2段、3段にもわたって波長変換を行う必要もありますから、パルスあたりのエネルギーは高いに越したことはない、ことになります。
チャープパルス増幅
再生増幅器のために核心となるチャープパルス増幅と呼ばれる技術について、まず紹介します。この技術がどれだけ重要なものであるかは、2018 年のノーベル物理学賞がこの技術を開発したMourouとStrickland に与えられていることからもわかってもらえると思います。「チャープパルス増幅」が発明されなければ、その後のフェムト秒パルスレーザー光源の発展はなく、フェムト秒レーザーを使った様々な発見や実験も行われなかったと言っても過言ではありません。以下にそのエッセンスを紹介します。
レーザーのパルスは増幅媒質を透過する際にゲインがロスを上回っていれば、増幅します。ただ、そのような光を反射させるミラーや、分散させるグレーティングはダメージ閾値を持っていて、それ以上のエネルギーを持ったパルスが入射してしまうと、コーティングが非可逆的なダメージを受けてしまい、レーザーとして使用できなくなります。特に、フェムト秒レーザーでは短時間の間に巨大なパワーが集中しており(尖頭出力と言います)、容易にミラーはダメージを受けてしまいます。 これを避けるために考え出されたのが「チャープパルス増幅」で、簡単に説明するとわざとパルスの時間幅を引き延ばして、ミラーがダメージを受けないようにした状態でパルスのパワー増幅を行なって、最後に時間幅を圧縮してフェムト秒の増幅パルスを作っている、ということになります。 このパルスの時間幅を引き延ばす方法として、チャープ(チャーピング)という方法が用いられているわけです。
チャープとは?
超短パルスレーザーの特徴として、ブロードなスペクトルを持つことが挙げられます。つまり、様々な周波数成分を同時に含んだパルスであると言えます。ここで、一つ問題になるのは、そうした異なる周波数成分の光が時間的にはどのような分布をしているのか、ということです。言葉ではわかりにくいので、下に図で示します。理想的なチャープのかかっていないパルス (A) では全ての周波数成分が同じタイミングで到達します。別の言い方では、パルスに含まれる任意の時間でその瞬間の電場が持つ周波数が同じになる、と言えます。これに対しチャープしたパルスでは、異なる周波数成分が違うタイミングでポイントに到達します。各瞬間に定義される周波数が時間的に変化していく状況です。例えば下の図の B では時間の経過とともに周波数が増加していくパルスを表してい て、Cでは逆に減少していくパルスを表しています。こうしたパルスをそれぞれアップチャープ、 ダウンチャープと呼んでいます。
超短パルスを用いた実験では、時としてこうしたパルスのチャープも重要な影響を及ぼします。また、 たとえレーザーから出てきたパルスが A のようなチャープゼロのパルスであったとしても、プリズムやレンズなど様々な光学素子を通過することによってチャープが付加されていきます。要は、媒質中を伝播する光の速度に波長依存性がある(屈折率に分散がある)場合、チャープは生じます。レー ザーのスペクトル幅の範囲において、屈折率の変化が小さい場合にはチャープの影響は無視できま すが、サブ10fs レーザーなどブロードなスペクトルを持つ光源では、空気中をレーザーが伝播する だけでもチャープは加わってしまいます。
再生増幅器の構造
それでは再生増幅器中身を簡単に紹介します。オシレータからやってきたシード光と呼ばれるフェムト秒パルスは、グレーティングを使ってチャープを付加し、数十 ~ 数百ピコ秒の時間幅になります。 こうして長く引き伸ばされたパルスを、再生増幅器のキャビティ内で増幅して、その強度を稼ぎます。 時間的に引き伸ばされているので、増幅によって増大した尖頭強度でもミラーや波長板はダメージを受けません。そして、適当な強度まで増幅されたパルスを取り出し、今度はグレーティングでパ ルス幅を圧縮することで、元のシード光と同程度の時間幅のパルスが作られ、出力光として取り出されます。 当然、キャビティによるパルス増幅には時間がかかりますから、オシレータからやってくる全ての パルスを増幅することはできず、うまく1発のシードパルスをピックアップして、その増幅を行います。具体的にはもともと繰り返し 76MHz のパルス列から繰り返し 1kHz の増幅パルスが出力され ていますから、76000 発のパルスのうち、1発だけを取り出して増幅をしているということになります。