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vol. 3 pump-probe measurement
ポンププローブ測定とは ?
超短パルスレーザーを利用した実験の最大のメリットは、「物質中で起きる現象を高い時間分解能で観測できること」にあります。その際に用いられる実験方法として、まず最初にレーザー光を入射して対象とする系の中で何か大きな変化を引き起こし、一定時間経過後に別のレーザー光を入射してその反射、透過後の光の変化を観測する、という手法が一般的です。このような実験方法をポンプ・ プローブ法と言います。実験によって、ポンプとプローブは同じ波長の光であることもあれば、全 く異なる波長の光であることもあります。また、観測する光の特性も吸収、反射強度であったり、偏光の回転であったりと千差万別です。遅延時間の掃引の仕方にも様々な方法があります。 最も単純なのはステップスキャンと呼ばれる、機械式ステージを少し動かしては測定し、また少し動かしては測定する、という方式です。
具体例:紫外pump-白色光probe測定 (過渡吸収測定)
具体例として、実際に行なっている紫外光 pump - 白色光 probeの実験について紹介します。光源であるチタンサファイア再生増幅器からの出力波長は 800nm 中心ですが、OPA を使用して中心波長を350~400nmのあたりに波長変換し、ポンプ光として使用します。プローブ光には、「白色光発生」と呼ばれる現象を用いて、500-750nm あたりをカバーするブロードバンドな光(見た目白色っぽく 見えます)を利用します。
試料として例えば有機半導体結晶を用いると、ポンプ光により電子励起が起き、励起状態のポピュレーションが発生します。その後、白色光を入射した場合、一般的に起きる現象として励起状態からそのさらに上の励起状態への吸収(excited state absorption)と、ポンプ光による励起の結果基底状態のポピュレーションが減少したことによる、白色光の吸収の減少(ground state bleach) などが挙げられます。励起状態からの吸収は、白色光の透過強度の減少として、bleach 信号は(ポンプ光がない場合と比べて)透過強度の増加として観測されます。 (注:実際に起きる現象は試料の特性によって大きく変わります。)
下に示した例では、遅延時間 0 で透過強度が大きく減少し、それが徐々に回復している様子が観測されています。これは、励起状態吸収の典型的な例であり、時間変化は励起状態のポピュレーションの基底状態への緩和による減少を表していると考えられます。
このような測定から、励起状態の寿命やコヒーレントな量子ビートの計測、中間状態の立ち上がりなど系によってさまざまな現象を導き出すことができます。物質の中で何が起きているのか直接みることは難しいですが、超短パルスレーザーを用いることで物質の中でフェムト秒・ピコ秒の時間スケールでどのような現象が起きているのか、我々は知ることができるのです。