Research

Cavity exciton polaritons and vibrational polaritons

6. キャビティ励起子ポラリトン

 光の波長程度の微小領域に閉じ込めた光と物質の励起子が混ざり合ってできる準粒子をマイクロキャビティ励起子ポラリトンと呼ぶ。その成り立ちから、この粒子は光と物質の特徴を併せ持った興味深い研究対象である。 現在、無機量子ドットを微小キャビティ中に閉じ込めてフォトンと結合させた系において、ポラリトン凝縮と呼ばれる原子のボーズアインシュタイン凝縮と類似した興味深い現象が観測されている。ポラリトン凝縮状態は量子的な状態であり、その状態からの発光は必然的にコヒーレントな光となるため、低しきい値でのレーザー発振(ポラリトンレーザー)が報告されており、今後の応用へ向けて研究が進んでいる。また、有機分子の励起子とフォトン からなる励起子ポラリトンも最近報告がなされ、新たな応用分野が広がりつつある。有機分子を利用したポラリトンは室温かつテーブルトップの環境で、いわば「基板1枚」でポラリトン凝縮という量子的な集団を実現できるため、今後の応用を考えた場合非常に魅力的である。 

コヒーレント制御の観点から見た場合にも、励起子ポラリトンは非常に興味深い系である。その理由として、まず一つ目に有効質量が非常に小さいために光子との運動量のやり取りがダイレクトに 操作、観察できる系であるということ、二つ目にポラリトン凝縮に関連した自発的なコヒーレンスの生成という現象と外部からの光によるコヒーレンスの生成という、 相反する二つの事象を扱える可能性がある点である。ただ、電子の励起状態を扱うため、そのコヒーレンス寿命は非常に短いという点は短所と言える。        

 

6-1. キャビティポラリトンの基礎

 光を閉じ込めるキャビティにも様々な形態が存在しているが、我々が用いるのは分散型ブラッグ反射ミラーと呼ばれる高い反射率を持った2枚のミラーの間に活性媒質層をサンドイッチしたような構造である。このような平面キャビティに閉じ込められた光ではキャビティ軸に平行な面直方向の運動量が量子化される。この結果、そのエネルギーは


$$ E_{photon}(k_{\parallel})=\frac{\hbar c}{n_{c}} \sqrt{k_{z}^{2}+k_{\parallel}^{2}}=\frac{\hbar c}{n_{c}} \sqrt{\left(\frac{m\pi}{L_{c}}\right)^{2} +k_{\parallel}^{2}} $$


図6-1 ポラリトンの分散曲線

のように表される。一方、励起子のエネルギーEexは一定値をとると考えることができる。横軸に面内運動量k||、縦軸にエネルギーを取った時のこれらのプロットは図6-1の点線のようになる。ここで、キャビティ光子と励起子の間に相互作用が存在していると、エネルギー準位の変化が起きる。簡単のためCoupled Harmonic oscillator モデルを用いてこれらの励起子、キャビティ光子のハミルトニアン行列を記述すると、


$$ \begin{pmatrix}E_{ex} & V\\V & E_{photon}(k_{\parallel}) \end{pmatrix} $$

 

と表される。ここでVは励起子-キャビティ光子間の相互作用を表す。この行列を対角化することで得られる固有状態は


$$ E_{\pm}=\frac{E_{ex}+E_{photon}}{2}\pm \sqrt{(E_{ex}-E_{photon})^{2}+4V^{2}}$$



と表される。本来は各準位の緩和時間に関するパラメータも関連してくるが、この取り扱いでは簡単のため無視している。この新たな状態の分散を図6-1に赤線で示してある。固有ベクトルを計算すれば、この状態は励起子成分とキャビティ光子の成分が混ざり合っていることがわかる。これが励起子ポラリトンと呼ばれる状態を表すのだが、Vの大きさがどんなものでもポラリトンと呼んで良いか、というとそういうわけではなく相互作用の大きさについての条件が課せられる。簡単にいうと、Vと励起子、光子の緩和係数Γex, Γphotonの間に

 

$$ 2V > \hbar \Gamma_{ex}, \hbar \Gamma_{photon} $$


という関係が成り立つ場合を強結合状態とよび、この条件下で生成される新たな準粒子のことを励起子ポラリトンと呼ぶ。物理的には、分裂した2つのピークの間隔がそれぞれのピークの線幅よりも大きく、明確に観測できる条件に対応している。

 

6-2. サンプルの作成と評価

以下、作成中

 

6-3. k-space imaging測定系

 以下、作成中



7. 振動ポラリトン

励起子準位の代わりに、分子の振動準位がキャビティと強結合して定義される準粒子を振動ポラリトンと呼びます。振動ポラリトンは2015年に初めて報告された、比較的新しいポラリトンの仲間です。分子の振動モードは大体中赤外波長領域に存在するため、振動ポラリトンは中赤外波長程度のキャビティ長を持ちます。この結果、励起子ポラリトンのような薄膜だけではなく、液体試料を利用した強結合状態も準備することが可能です。

振動ポラリトンは現在非常に注目を集めていますが、その理由の一つは電子基底状態において、化学反応の反応速度が振動ポラリトンの形成によって速くなったり遅くなったりする、という現象が報告されているためです。これ以外にも、水のイオン伝導度が変化したり、ポリマーの形状が変化したり、とさまざまな影響が報告されています。


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